台湾が今置かれている状況はどうして起こってしまったのでしょうか?
連日記者会見を見ていますが、わたし自身何が起こっているのかと不思議に思っています。
今回は今年に入って起こった複数のクラスターについてみなさんと一緒に確認しながら、個人の安全対策に共に役立てていければと思い、記事を執筆しました。
急に感染者が増えた
台湾で感染者の発表があっても、ほとんどが台湾の外で感染したというものでしたので、みんな割と安心していたと思います。
当然感染者がいなければ台湾CDCも市長たちもその方面で発表する必要がないので、記者会見は開きません。
それに陽性者が発表される頻度はそれ程なかったですし、本当にみんな他人事だったのです。
ところが4月中旬ぐらいから、状況が一変します。
人数は少ないものの、ほぼ毎日のように新型コロナウイルスに感染された方の発表がされて行きました。
この辺りで既に異変の予兆はあったと思います。
外から入国させないという鉄壁のディフェンスで台湾島を守って来た台湾政府でしたが、実はごく限られた人に限っては、水道の蛇口が開いているかのように、ちょっとずつ人が入って来ていたのです。
台湾に入国出来ていた人たち
ご存じの方も多いと思いますが、少し前まで台湾では以下のビザが発行されなくなりました。
教育部(日本でいうところの文科省)が管轄する
- 交換留学目的のビザ
- 語学留学目的のビザ
ただ以下のビザは発行され続けていました
教育部(日本でいうところの文科省)以外が管轄する
- ワーキングホリデービザ
- 商務用ビザ
台湾政府も何度か告知しているのですが、短期の入国は出来なくしていました。
要するに、自国と台湾を何度も往来する事が出来る、またはその可能性がある語学留学目的のビザと一年未満の滞在の交換留学目的のビザは発行しませんというスタンスだったのです。
商用目的のビザに関しても短期では発行しないという通達がありました。
短期滞在者達が頻繁に出入りする事を避け、一年以上の長期滞在者に限ってビザを発行する方向で調整した結果だと思います。
さらに台湾国籍の人や台湾の在住カードを保持している人はもちろん入出国できていましたし、航空関係者も入出国できなければ困りますので、こちらは別の規定がありました。
こういった様々な事情もあり、陽性の方の発表があっても、入国者数は以前よりずっと限られていると誰もが信じて居ましたし、台湾CDCの記者会見を見ると、その方たちのほとんどが入国から隔離解除までの間の検査で陽性と判明した事がわかっていたので、多くの人が台湾CDCの陳時中部長の説明を聞くと安心していたのです。
そういった事もあり、陳時中部長を神格化していた部分もあると思います。
あの人たちが外からのウイルスを水際で喰いとめてくれていると、私でさえも錯覚していました。
本当に現場で対応されているのは、一人や二人ではなく、各現場で本当に大勢の方たちのチームワークによって守られていたのですけどね。
台湾の水際対策が急展開
253日連続感染なしの記録がストップした要因
12月22日台湾CDCは台湾に3例の新型コロナウイルスが流入されたと発表しました。
事の発端は、台湾の緑色の航空会社の外国人パイロットの感染が発覚したところからはじまります。
このパイロットは、マスクを着けずに何度も乗務を行い、少なくとも他2名のパイロットに感染を広げたと報道されています。
この外国人パイロットは11月29日に勤務でアメリカへ飛行、12月4日台湾に戻りました。
12月12日に同僚パイロットと同じフライトでアメリカに戻りますが、その時機内で咳の症状があり、同僚からマスクを着用するよう頼まれています。
しかし当該パイロットはマスクの装着を拒否。
その後、その同僚2名が陽性と診断されました。
ここまでは台湾域外での感染というカウントだったのですが、当該外国籍パイロットは台湾在住の女友達と外出し、その女性に感染させてしまいます。
外出先には台北市内の賑やかな町が含まれており、そこにあるデパートにまで足を延ばしています。
この外国籍パイロットは飛行作業を行っていたとき、すでに咳が続く症状が出ていたにも関わらず、必要に応じてマスクを着用していなかったため、2人の乗務員に感染を広げました。
また、台湾に帰国したパイロットが実際には「自主健康管理」を行わず、台北地域を出歩き、その結果女性の友人に感染が拡大しました。
もともとは彼も台湾の外で感染させられた立場であり、そういった角度から見ると確かに気の毒ではありますが、彼は台湾での聞き取り調査の際、行動履歴を明らかにせず、台湾の新型コロナウイルス蔓延防止対策に協力しませんでした。
この方の軽率な行動は、台湾の本土感染ゼロ記録を253日でストップさせただけに留まらず、同じ時間帯にデパートをはじめ施設を利用した人々にまでウイルス検査の範囲を拡大させ、またその関係のない人たちにまで自主健康管理の行動制限を与える結果となりました。
当航空会社は12月23日に謝罪し、当該外国人パイロットを即日付けで免職処分にしました。
それからしばらくはまだ平和な日々が続いていました。
それが4月25日の発表で緊張感が一気に高まりました。
航空関係者の感染
またもパイロットの方の感染が確認されます。
今度は台湾国営航空会社の貨物機パイロットの方で、仮にAさんとします。
この方も外国籍の方でした。
台湾政府は海外からの一般入国者に対して、2週間の隔離とその後一週間の自主在宅健康管理を義務付けていました。
航空関連職の方はどうかというと、実は違う規定があったのです。
それが、3日隔離+11日自主健康管理というものです。
この外国籍パイロットのAさんは、同僚パイロットと共に、4月4日から4月10日まで共にアメリカで勤務してました。
その間無症状で、台湾帰国後の4月15日に検疫を終え検査をすると結果は陰性でした。
自宅に戻り自主健康管理がはじまりますが、この自主健康管理期間中は体温、行動履歴、症状などを日々記録し、必要外の外出は避ける事が義務付けられています。
このAさん、翌日の4月16日には疲労と少し熱があるように感じていたといいます。
その日のお昼、フライトで一緒だった同僚パイロットBさんと、ご自分の同居のお子さんを連れて3人で台北市の高級エリアにあるモスクに礼拝に行っています。
このAさんは陰性でしたし、礼拝は必要最低限の外出と捉えて良いでしょう。
4月18日になると軽い咳の症状が出ますが、薬を飲むと改善したという事です。
4月21日、親族を尋ねるため祖国に戻る予定で自費で検査を受けた所、陽性と診断されました。
この事から、少なくとも2週間は無症状で、症状が出てからも微熱と咳だけだった事がわかります。
また更に残念なことに、4月25日になって台湾CDCは、このAさんの同僚で、共にモスクに礼拝に行ったBさんに関して、オーストラリアから連絡があり、Bさんのオーストラリア出国前検査の結果は陽性だったと公表しました。
ただこのオーストラリアからのケースは、外から流入したケースとして扱われているのか、台湾でのケース番号は割り当てられていません。
経路が把握できている限り、本土拡散をなんとか喰いとめられるという意識が台湾政府にはあったのだと思います。
そして貨物機パイロットAさんと同居のご家族は、おそらく接触者という事で検査をする事になったのだと思います。
お気の毒な事に、お子さんも陽性の結果でした。
オーストラリアで検査結果が出たAさんについてはよくわからないのですが、Bさんとその息子さんは英国型に感染していました。
またこの方たちに落ち度はないように思えるのですが、台北の中心地で且つモスクという人が多く集まる所に行っていた事がわかり、ニュースで大きく報道されました。
この際の政府の発表では、モスクは社会的距離を維持する対策を取っており、当日の収容者は室内200人、屋外200人しか収容できず、礼拝の際は数人でしか同時に出来ないようになっている事と、これ以外の接触者はいないとの事でした。
これは一見パイロットの方たちだけの感染にも見え、まだ他人事のように感じていた人も多いと思うのですが、後でわかる相関図を見て行くにつれて、どんどん複雑になっていきます。
隔離ホテルに関連するクラスターが発生
国営航空会社勤務の方たちの隔離先は桃園国際空港付近の隔離ホテルでした。
5月10日の時点でこのホテルで起こったクラスターによる陽性者数は35人まで確認されています。
そしてホテルのマネージャー、従業員、外注スタッフの方たちと、その御家族にまで感染が広がってしまいました。
ホテル関係者は陽性と判明するまでの間、ふつうに桃園市と新北市、桃園市と台北市を移動し活動していました。
そのご家族もそれぞれにお仕事、学校がありますから、陽性とわかるまでのあいだ、家の近くで活動を続けていました。
さらに陽性と診断される前のパイロットの方がそのホテルに隔離されていたり、陽性のパイロットと同乗のパイロットが乗務中に感染したと思われるケースなど、その相関図は本当に複雑です。
自主健康管理期間中は軽率な行動を控えるべき理由
またここでも軽率な行動をとった人の報道が台北を騒然とさせます。
台湾の自主健康管理期間中というのは、必要最小限の外出以外してはいけないのです。
ですが、2名の航空関係者がこの期間中に台北市内まで飲みに出かけてしまいます。
この2名とも後で陽性となり、自宅健康管理期間中にお店に来ていた事を知ったお店のオーナーから通報が入ったので、政府はこの2名の規定違反を知りました。
この頃、同航空会社パイロットの陽性が相次いで判明した為、乗務員にワクチン接種をさせる動きが出てきます。
その中で先に書いた、自主健康管理期間中に飲み歩いていたパイロットもワクチン接種を受けました。
この方は4月19日と22日に勤務でベトナム及びタイへ行き、24日に受けた検査で陰性と診断されました。
4月28日に模擬飛行訓練のインストラクターを務めた後、4月29日にアストラゼネカ製のワクチンを接種、5月4日頃全身に倦怠感が出て6日から発熱がはじまったため、検査を受けた結果、8日に陽性と診断されました。
またこの感染が発覚したパイロットの方たちの隔離場所は奇しくも、桃園国際空港附近にある同一の隔離ホテルでした。
ホテル関係者の感染
5月3日、航空関係者の方たちが隔離先として利用していた同ホテルのアウトソーシングスタッフの方の陽性が判明したと政府が発表しました。
その方は無症状であったため、ふつうに生活していました。
関連性はわかりませんが、この方は新北市の盧洲ライオンズクラブがある、盧洲で食事もしています。
(盧洲というのは新北市にある町の地名です。)
それぐらい桃園市から台北市、台北市から新北市の距離は本当に近いので、移動しようと思えばすぐに行けてしまうのです。
接触者の検査を進めて行ったところ、同じホテルのマネージャー、スタッフの陽性が次々と判明し、やはりそのご家族のうち何名かが陽性となってしまいました。
みなさん無症状の間はふつうに空港がある桃園市、またご自宅がある台北市、新北市を移動していたのです。
自分でもそうなる可能性があるので、人のことを安易に責めたり評価することは出来ません。
ただこうしてよくわからない間に、ジワジワと広がって行ったというのが事実です。
救急医の感染
航空関係者やホテル関係者の相次ぐ陽性が判明するなか、市中感染という言葉を政府が使うようになりました。
そして体調不良を起こした方や検査で陽性を認められる方が出るなか、新北市盧洲地区にあるライオンズクラブと、龍山寺もある台北の伝統ある町、万華(萬華)でのクラスター、加えて宜蘭(いらん)のゲームセンターでのクラスターも判明します。
この3か所の関係性を推測する記事や、この新北市盧洲地区にあるライオンズクラブと、後に発覚する一人の救急医がライオンズクラブの誰かと関連があるのではなど、様々な推測がありました。
わたしもその相関を確かめようといろいろな記事を見ましたが、騒動から一か月も経ち、記事が多過ぎて紐解くのに膨大な時間がかかりそうなので、今回は途中で断念しました。
ただひとつ明確にわかっている事は、この救急医の方には渡航歴がなく、無症状であったことです。
そして地位的な事やお仕事のお付き合いが関係しているのか、政府が発表した行動履歴を拝見すると、日々活発にいろいろな違う場所を移動し、会食に参加されていました。
私たちの大学がある近くにも来られていて、大学でニュース速報を見た後は怖くて授業が耳に入って来ませんでした。
茶芸館も萬華(万華)も責められる立場にないと思う
台湾の土地勘がない人は、聞きかじったニュースで台北の萬華(万華)や茶芸館について安易に評価してはいけないと思います。
まずは萬華(万華)の位置や土地柄をよく理解して欲しいと思います。
ここは台湾に中国の前身の国から移民で渡って来た人が辿り着き、早期に開拓、開発がされた町なのです。
萬華(万華)といえば縁結びの神様でも知られる月下老人が祀られている龍山寺で有名な場所ですよね。
この賑やかさは今に始まった事ではなく、台北の他の場所が栄えるよりずっとずっと前は、それは賑やかな場所だったのだそうです。
地図を見ればわかりますが、台北駅(台北メインステーション)や若者でにぎわう西門とも近く、遊びに行くのに便利な場所です。
しかし台北市政府や101ビルなどがある台北の東エリアの開発がされてからは、どんどん廃れていきました。
それでも伝統ある文化が残る街なのです。
そして茶芸館は、日本の一部マスコミでも報道されたようですが、日本でいえばホステスさんのいるようなお店だと思います。
日本のホステスさんがいるお店でも、その接客と客層はおそらくピンからキリまで、幅広いと思います。
我々観光客は龍山寺しか興味ありませんし、近くの夜市も何とも思わず入って行きますが、地元台北人は夜ひとりで、特に女性は行ってはいけない場所として忠告してくるディープスポットなのです。
特に龍山寺近くの夜市の一本表の通りでは、年配の男性をお客さんにするお店が沢山あると聞いています。
龍山寺の駅前広場には家があるのかないのかわからない方がたくさん集まって、中国将棋を打ったり楽しそうにやっています。
その広場には身体を売る女性もいるとかで、間違えられるといけないから、夜はとにかく女性一人であの広場には行かないようにと、何人もの台北の子から忠告を受けました。
観光客相手には誰もそのような事は言わないと思いますので、たぶん多くの人からしてみれば、初めて聞かされる事実だと思います。
私は東京人ですので、あの場所をあえて例えるのならば、東京新宿歌舞伎町の裏通りのような所です。
もしくは話でしか聞いたことがありませんが、上野の山谷(さんや)地区のような場所だと思います。
上野も新幹線止まりますし、以前は栄えた町ですよね。
山谷にはお家のない方がたくさん生活していらっしゃると聞いています。
少し行けばアメ横もあって賑やかですし、多くの観光客が足を運ぶ定番の場所と考えると、上野が台北メインステーションで、山谷あたりが龍山寺駅前と考えるとよりわかりやすいかも知れません。
また茶芸館自体が問題なのではなく、お店の造りが窓も少なく風通しが良くないと地元台湾の人から聞いていますので、そういったコロナが蔓延しやすい環境だった事も念頭に入れた上でお話してください。
最後に台湾メディアが作成した相関図がわかるアドレスをいくつか貼っておきますので、ご興味のある方はご覧ください。
私はこの相関図を見ていて、英国型に感染された方の方が重傷者が多くて、また多くの人に感染させてしまっている、すなわち感染のスピードが速い印象を持ちました。
台湾は北に人口が密集しており、そこには台北、新北、桃園などの市があります。
今回記事にしたのは宜蘭も含めたすべて台湾北側エリアです。
北側エリア以外では、その他にも台中エリア、台東エリア、台南エリアがあり、また別の時期に別のクラスターや市中感染が発生している状況です。